2006年11月19日
休日
終日雨。
ベトナム事務所では、縫製研修工場のために何人かの
方々が視察に来ている。宇都宮縫製工業組合理事長の佐藤さん。
東京のSドレスの社長さんと部長さん。
縫製研修工場建築後、日本からの委託加工への協力をお願い
している。わざわざフエまで来てくれている。有難いことである。
「言うは易し、行うは難し」である。こういう日本人がまだいると
いうことを知るだけでも心洗われる気持ちになる。
終日読書
「寄り添って老後」(沢村貞子著:ちくま文庫)読了。
女優:沢村貞子83歳の随筆である。
父は狂言作者。浅草・千束で生まれる。生粋の下町っ子。
兄は俳優沢村国太郎。姉は矢島せい子、弟は俳優の加藤大介。
兄沢村国太郎の子どもが、長門裕之、津川雅彦、その夫人が
それぞれ南田洋子・朝丘雪路という俳優一家である。
私の知っている沢村貞子は、テレビのおばさん、女将さん、
時々、意地悪な姑役などをやっていた。早口で歯切れの良い
下町の言葉を使っていた。
本書を読むとなかなか優秀な子だったようだ。
明治41年生まれである。当時の府立第一高女(今の白鴎高校)
を出て、当時の最高学府日本女子大に入学している。
学生時代、左翼演劇運動に参加。新築地劇団で労働者解放
運動に参加。共産党、共産青年同盟の活動に参加したようだ。
治安維持法で逮捕。大学退学。4年間ほど拘置所などに
入り、拷問もされたそうだ。
信頼していた活動の同士に裏切られ活動から退き、日活に
入社。生涯250本の映画に出演した。いくつかの賞も受賞
している。
このエッセーを読んで感じたこと。83歳にして新聞を実に
よく読んでいる。また、やんわりではあるが、日本の政治に
強く興味をもち、意見を述べている。
『近頃、アメリカの一部では、老人を「厄介なお荷物」と
する世論が強まったという新聞記事を見た。この数年、
保険・医療費が大きく膨張し、その支出の3分の1を
老人が占めていることも、その風潮を煽っている、という。
「アメリカが世界経済の主役の座を取り戻すために
必要なのは、老人給付政策を大幅に縮小することだ」
とある政治家の言葉に老女の私の心は冷え冷えとした。
何故、世界経済の主役にならなければいけないのだろうか?
政治家は自分の国のすべての人たちを豊かに、幸せ
にするために働いてくれているはずなのに・・・・。
どんな豊かな人も貧しい人も偉い人も普通の人も、間違いなく
齢(よわい9を重ね、老いて行く。何かの縁で、永遠の地球の
この一瞬に生まれあわせた人間同士ーーせめて、互いに
寄り添って、優しく手を貸し合って生きたい、というのは無理な
願いだろうか。そのほかに、どんな「人間の幸せ」があるという
のか・・・・・・、わからないことばかりである。』
1991年、83歳の沢村貞子の言葉である。
今の日本の政治家に聞かせたい言葉である。
沢村貞子の姉の矢島せい子も雑誌「こどものしあわせ」や
子どもを守る会などで活躍した社会運動家。
こうした子どもたちを育てた下町社会と両親の人間性。
学ぶべきものが多い。
貞子が若い頃、資産家の息子との縁談が持ち込まれた。
父親は「娘を玉の輿にのせて、左団扇だなんて、
そんなうすみっともないことができるか」と縁談を断っている。
人との付き合い。『考えた挙句、ゆきついたのは
、やっぱり、昔、母に教えられたとおりのことだった。
世の中にご縁があって付き合う人たち
には一生懸命、やさしくすること。けれど、相手の暮らしには
踏み込まないこと。自分と違う生き方を無理に理解しようと
しないこと。お互い、そのまま、そのまま、後は、自然の
なりゆきに任せること。』 そんな両親だったようだ。
『「一生懸命働く貧しい人たちに幸福を・・」、そのスローガン
に動かされ、今後こそ、そのために一生を捧げよう、と固く
決心したのだったが、次々と色々なことが起こるたびに、
人間という生き物の弱さが身にしみてわかってきて、また
夢が破れた。幻滅した。政治について、全く無知だった私を
導き、自分自身、鉄の規律を守っていたはずの先輩たちも、
結局、私と同じように弱い人間と知って、・・・・・悲しかった。
挫折して、立ち上がれなかった私をやさしく励ましてくれた
のは、苦労かけた母だった。「お前のしたことは、決して
、悪いことじゃないよ」』。
戦前である。「赤になった」「国賊」といわれた時代である。
娘が治安維持法で逮捕された母親。小林多喜二の母親と
同じく、明治の女は、学校へは行っていないが、人間として
の気丈さと生きる知識をもっていた。
15年ほど前にかかれたエッセーであるが、人間の生き方、
身のこなし方、年のとり方、老後の生き方として本当に
見事な見本だ。こうありたいものである。
夜、厚揚げの煮浸しが食べたくなり、作る。
あぶったするめと人参・こぶを醤油につけた。それを
おつまみに飲む。
沖縄県知事選挙。糸数氏が惜敗。残念。
ピースボートで沖縄・那覇市に行った時、糸数氏の
支援を若干おこなった。その際、選挙運動をしているのは、
ほどんが50歳代以上の人であった。
数日前の教育基本法改悪反対の国会請願デモも
同様に若者の姿はほとんど見えなかった。
50歳代以上かそれ以上の高齢者だけでは、世の中に
影響を与えることはできない。ボランティアに参加している
多くの若者がいる。真面目で世の中の貧富の差、不平等に
心を痛めている。古い固まった頭のひとたちが、狭い自分たちの
経験だけで進めている今の運動には、拡がりがない。
若者が共感する運動、若者が加われる運動を構築することが
急務である。
投稿者 koyama : 2006年11月19日 14:07
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://koyamamichio.com/mt-tb.cgi/1009